アレコレ楽書きessay

「イタリア楽描きessay」のサブブログ

数百万円を救う手順と頭のないうさぎと蘇る前世の感覚

今月も針仕事で数十着の
ドレスを救出した。
納品最終チェックで
小さな穴や引きつりが見つかると
その状態に合わせてケアをする。

今回初めて挑んだ救出は
頭のないうさぎの刺繍。
幸いにも余り布があった。
機械刺繍のうさぎの頭を切り取り
自然に見えるように縫い付けた。

職場で扱う服の店頭価格は
たいてい一着数十万くらい。
販売価格が高額である分
細かい手作業がとても多い。

安く大量生産されている服と
比べてみると違いがよくわかる。
ラベルやボタン付けはほぼ手作業。
裏地や角の後始末を見れば
どれくらいのケアが
一着の服に施されているか
とてもよくわかる。

たぶんオーダーメイドくらいの
丁寧さで最終チェックがなされる。
だから細かい修理も大事な業務。

まずはよく観察。
周りの布や縫い目との
関係性を理解しないと
あるべき形に戻す手順が
わかりにくいから。

ピンセットや針を使って触診。
布の強度や性質をインプット。
どの方向にどうやって収めるか。
脳内シュミレーションをする。

ある意味とても機械的。
感情は一切不要だから。

失敗したらどうしよう!?
上手くいったら褒められるかな?
そういう個人的な感情は
まったく必要ない。

ただじっくり見て理解する。

「こうすればきれいな形に戻る」

という情報は自動検索に
とてもよく似ている。
考えるという域を
越える感覚を度々感じる。

無我の境地になったとき
そこに普段の手さばき鍛錬が
絡み合って神業が降臨する。

言葉での思考が
空っぽになればなるほど
作業はスムーズにこなせる。

度々一着の値段が数百万円の
ゴージャスなドレスを作る。
きれいだな、とは思うけれども
着たいと感じることはない。

いつの時代のどこの国かは
わからないけれども
きらびやかな服に身をまとった
暮らしの息苦しさと虚しさを
体験した感覚を知っている。

だから憧れない。
むしろ嫌悪感が湧く。
王宮や城も好きじゃない。
行動の自由がなくて
いつも付き人がいる暮らしに
うんざりしていた。

自分で決めて自分の手で工夫して
自分であれこれやってみたかった。

それができる今の人生は
描いたとおりのもの。
この手でできることが愛おしい。

素敵な土曜日をお過ごしください。


Foto Yaegashi Luna