アレコレ楽書きessay

「イタリア楽描きessay」のサブブログ

全盲の女性との会話で使ったことば

同じ大学にひとり全盲の女性がいた。

ある朝、彼女と一緒に正門から本館まで

話をしながら歩いたことがある。


彼女は私より年上だから

もう敷地内の様子は把握していて

ことさら不便を感じてはいなかったと思う。


周りには誰もいなかったし

どうせ同じ方向へ行くのだから

本館までご一緒しましょうか?と声をかけた。

彼女はにっこり笑ってすぐに意味を理解して

私の右肘に軽く手を回した。


新入生だと伝えると

「大学生活はどう?楽しい?」と聞いてきた。

はい、いろんな人種がいる学校は

日本では貴重な場所だと思う。

見てるだけでも楽しいです、と答えた。


その直後「見る」という表現は

彼女に対して失礼なことばなのだろうか?

と、頭で一瞬考えた。


そんな私のひとときの戸惑いを

全ておおらかに包むように彼女は微笑んだ。

何を感じて何を思ったかはわからない。

でもその柔らかな笑顔が

彼女の人柄と器の大きさを物語っていた。


選択授業やクラブ活動の話をしながら

私達は本館に向かってゆっくり歩みを進めた。

「どうもありがとう。大学生活楽しんでね」

と言って、彼女は慣れた足どりで

杖を使いながら教室へ入っていった。


4年間の大学生活でこの素敵な女性と

一緒に歩いたのはたった一度だけ。

ほんの数分間の時間を共有しただけで

私はたくさんのことを学んだ。


特別に困っていた訳でもないのに

知らない人にすっと手をかけて相手を信頼する

その心の広さを身を持って示してくれた。


ことばの選択に躊躇していた

私の気持ちを瞬時に汲み取り

ただ微笑むだけで

なにも言わずに全てを伝えてくれた暖かさ。


彼女から学んだ最も大切な教えは

見かけや上辺のことばに囚われないということ。

何かを感じとるときに私は目を閉じる。

または目の前の喧騒を凝視しない。


何かを学ぶ時に大事なのは

それに費やす時間や認知度ではない。

〇〇メソッドの有名な✕✕先生の

集中セミナーを∆∆時間受講したから確実!

そういう看板セリフには振り回されない。


そういう学び方がしっくりくるという人も

たくさんいると思う。それはそれでいい。

全て個人の選択次第。好みも傾向も違う。


私は日々のあれこれから

生きた体験として学ぶことが好き。

関わり合うすべての人から

何か気付くことが必ずある。



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Foto Yaegashi Luna