アレコレ楽書きessay

「イタリア楽描きessay」のサブブログ

サイファ

40歳を過ぎてから
息子と一緒に空手を習った。
通った期間は約3年半。

沖縄剛柔流の教室が
地元で開かれることになり
近所の子供や若者に混じって
ひとりだけポツリと
年齢の離れた弟子になった。

筋やアキレス腱を痛めたり
痣をつくったりしながら
若いエネルギーに囲まれて
型や技を覚えた。

型のひとつに砕破(サイファ)
という名の動きがある。
これが好きだった。
青帯の試験演武でもある。

このサイファを個人演武した。
指名されたのは試験当日だった。

一般公開試験日には
総勢30〜40人が参加する。
その家族やご近所さん達が
観客として試験会場の周囲に集まる。

デモンストレーション演武も
指導者達やかわいい子供達が行うので
エンターテイメント性も含まれた
宣伝兼発表会みたいな感じ。

参加者が全員揃って
指定された項目を順次こなしていく。
最後にひとりひとり
黒帯指導者の試験監督の前で
指定演武をする。

会場の畳は横長に準備されるので
通常は4〜5人の試験監督が
椅子に座って個人試験演武をみる。

我が子の姿を撮影するために
親はスマホやカメラを向ける。

あちこちに視点が散らばるので
試験を受ける弟子達は
自分の演武だけに集中すればいい。
それでも恥ずかしがり屋には
ほんの少しハードルが高い。

個人演武が進み
順番待ちしている人数が
少なくなってきたときに
師匠が私を呼び
最後まで待て、と言った。

全員が終了した後に
試験を兼ねた個人演武をやれ。

はい、と答えて待つ。

こういうアドリブに近い
舞台演出に強い質だと師匠は
ちゃんと見抜いている。

若者に混じって試験を受けた大人は
私の他にもうひとり。
スポーツ人間タイプではないので
動きは年齢相応。
手足の動きはゆっくりで
空手の演武としては絵にならない。

親の世代でも充分
空手を習い身体を動かせますよ、と
アピールするために
適切な宣伝材料にもなるのは
この私だった。

師匠が手短に私を紹介する。
日本人であることも
イタリアの道場としては美味しい要素。

会場の注目は私の演武に集まる。
ゾーンに入るスイッチをオン。

けしてハイレベルの動きではない。
40代女性の平均運動能力は
軽く超えている自覚はあるけれど。

やることはシンプル。
試験に向けてやってきた
練習通りに動けばいいだけ。

うまく出来た所作もあったし
いまいちの動作もあった。
自分自身で最高の演武ではなかった。

終わった後に試験監督から
言葉を受け取る。
やっぱり満足した動きの
その部分を褒められた。

気持ちよかった。

注目が一身に集まることが
心地よいのではない。
どんな環境であっても
集中するときの感覚が
静かなエクスタシーなのだ。

これが空手道場通いの
実質的な卒業式となった。

インドの神の名でもあるサイファ。
破壊と再生の神様シヴァの双子。

成田美名子さんの漫画
「CIPHER(サイファ)」も大好き。

暗号または0(ゼロ)という意味もある。

自分の壁を砕いて破く。
子宮の入り口の処女膜を
男性エネルギーが通過して
新たな生命を宿す肉体が形成される。

そんな風にして
なにかを突破しながら
私達は生きている。

今日もいい天気です。
素敵な1日をお過ごしください。

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Collage e Foto Yaegashi Luna