アレコレ楽書きessay

「イタリア楽描きessay」のサブブログ

土曜出勤の密やかな楽しみ【カゴの中の鳥たちは扉から飛び立つ?カゴに戻る?】

イタリア人もやるときはやる。
働くときは働く。

洋服の納品期日から逆算して
通常のペースでは間に合わないとき
休日臨時出勤の依頼がある。

命令ではない。
あくまでも「お願い」の形で
責任者が声をかけてくる。

土曜日に臨時稼働するときは
経営者が必ず朝ごはんを
用意して「ありがとう」という。
受け取る私達もありがとうと言う。

空回りの嘘っぽい
「ありがとう感謝しています」
ではなくて本当に心から
言葉がぽろりとこぼれる。

嘘でも繰り返せば
確かに自己暗示にかかるけど。
自然に出てくる
ありがとうが好きだ。

土曜日の朝、5人だけで針仕事。
少人数で秘密を共有するような
柔らかい親密感が漂う。

普段はミシンやアイロンなどの
機械音と雑音に絡まり
少し離れた場所にいる人の
声がよく聞こえない。

土曜日に出勤するときは
たいてい私がスマホで
うるさくないBGMを流す。

昨日はいろんな話に混じって
地球ではない星での
記憶のことも言葉にした。
大げさでないリアクションが
とてもよかった。

70歳のRが言う。

「ここで針仕事をしてなければ
 知らなかったことをたくさん学んでいる」

彼女は郵便局を定年退職後
幼い頃から身についていた
針仕事をフルタイムでやっている。

家でぼーっと過ごしていると
ただ死を待つかのような
虚しさを感じた、という。

誰かの役にたつという感覚を
実感しないと存在価値が
ないように感じたそうだ。

ふと思い出した。

土曜日の朝3コマ連続の
大学での西洋美術史の授業。

束縛の激しい彼と付き合っていて
彼から逃れられる授業は
安心できるひとときだった。

虚しさを感じたり
存在価値の軸がぶれるのは
私の場合、極端に束縛されるとき。

カゴの中で飼われていても
噛み付いたり騒いだりしないけど
扉を自分で開けて
籠から飛び立つタイプだ。

70歳の彼女はカゴの中の鳥へ
餌を運ぶためにせっせと
飛び回るタイプ。

快適なカゴの中の生活を
築くために外のことを
全く考えないタイプもいる。

いろんな人間が混じって
お互いを尊重しあう暮らしが
私の描く理想の世界。

職場では実現している。
その小さな成功体験を
侮ってはいけない。
この宇宙はフラクタル構造で
つながっているのだ。

今日はゆったりのんびり。
素敵な日曜日をお過ごしください。


Foto Yaegashi Luna